するとタイミングよく声をかけられた。
「あっ、謙也はんに金ちゃんや」
「二人も団子食べに来はったん?」
現れたのは気心知れた友達の銀と副(副部長の名前不明の為"副"と代弁)だった。
すると金太郎は目を輝かせながら二人に言い寄った。
「なぁなぁ、聞いてや!謙也、男にときめいてん」
『??』
金太郎の言葉に二人は何を言っているのか理解できなかった。
「声でかいわ!!」
謙也は後ろから金太郎の口を塞いだ。
それでも何か言おうともがく金太郎の姿を見た謙也は視線を前に戻して苦笑する。
「あははははっ…」
暑くもないのに冷や汗が体中を伝う。
謙也の行動でようやく事を理解した二人は冷静な雰囲気を醸し出しながら、謙也にとって最悪な一言をサラっと発した。
「まぁ…中でゆっくり聞こうか、その話し?」
「げっ…」
謙也は瞬間に青ざめた。
逃げ出したい……
だが、こんな至近距離にいる男三人から逃げられたらたいしたものだ。
すぐに諦めて事が無事に終わることを祈った……
「ほぉ…で、謙也は恋に落ちたと」
「せや!そん時の謙也、めっちゃかわいかってん」
「だから声でかいねん」
金太郎の話しに訂正をいれながら謙也が所々で口を挟む。
甘味処の一角でまさかこのような会話が展開されていようとは店側も思っていないだろう。
「なら、あいつに聞けばええんとちゃう?」
「そうやね、小春はんならようわからはると思うわ」
副と銀の提案に首を傾げる謙也。
さっそく、その小春と言う人物に会わしてくれると言う。
「めっちゃ変わり者やさかい、気をつけはったほうがええで」
銀の忠告にまたもや首を傾げる謙也。
着いた家は謙也の住んでいる家とは格が違っていた。
「坊ちゃんかよ…」
ぼそっと言い放つ謙也を他所に銀と副が家の中に入っていく。
すると出迎えに来た人物はよそ見している謙也に抱き着いた。
「いやん、何?この子、男前~!」
「なっ、何や離れろ!」
謙也は抱き着いて来た変態を引きはがす。
すると今度は隣にいた金太郎に抱き着いた。
「この子も可愛いわ」
「おおきに!」
金太郎は変態に抱き着かれたことに動じず、喜んでいた。
まぁ、ただ単に褒められたから喜んでいるだけだろうが…
目を白黒させている謙也に笑いが止まらない二人が言った。
「だから言ったやろ?気をつけろって」
「その人が小春はんや、謙也」
「げっ」
謙也はいかにも嫌そうな表情で小春を見た。
その瞬間、銀達の後ろからもの凄い形相をした人物が現れて、小春を怒鳴り付けた。
「小春、あんたって奴は!!ほんま死なすど」
「ユウジはん、ごめんって」
小春はすぐに金太郎から離れて、ユウジの許に駆け寄った。
事態も一段落ついた所で互いの紹介が始まった。
「こっちがさっきも言ったけど、金色小春と一氏ユウジや。で、こっちは忍足謙也と遠山金太郎。今日はちょっと聞きたいことがあって寄らせてもろうたんや」
副の端的な紹介が終わり、小春の了承を得て四人は家に上がらせてもらった。
そして事情を説明する副と銀の話しを聞いた小春とユウジは哀れむような目で謙也を見た。
「あら~、大変な人を好きになったわね」
「ほんま、蔵ノ介って言うたら白石家の跡取りで、才色兼備っちゅう話やん。それにめったとないと外にも出んからな」
蔵ノ介のことについて知っていることを全て聞いた謙也は肩を落とすしかなかった。
すると小春が謙也に顔を近づけると、小声で話し始めた。
「もっと裏の情報知りたいんやったら紹介したらへんでもないけど…」
そして謙也は小春の誘いに乗ってしまった。
「そいつ自分では情報屋を名乗っとるようやけど…方言が違うさかい、よう気をつけや」
小春の言葉を思い出しながら謙也は教えてもらった住所を頼りに歩いていく。
小春の家で他の三人と別れた謙也は現在一人だった。
悪い話しに乗らんようにと銀達に心配されたが、こればかりは自分の問題。
自分で解決しないと意味がないのだ。
それに相手は自分と同じ気持ちかはわからない。
だが、もう一度会いたいのだ。
白石蔵ノ介に―――――
「ここか…」
着いた場所は普通のどこにでもある日本家屋である。
だが、その家が持つ雰囲気は独特で、はっきりと言えば異様な雰囲気である。
謙也は気持ちを落ち着かせ、生唾を飲み込むと意を決して中に入って行った。
それにしても何故このような場所を小春が知っているのか?そっちの方が不思議である。
それを聞こうとした謙也だったが、瞬間に満面の笑みで、「世の中知らんほうがええこともある」と言われてしまった。
しかし謙也は見た。
小春の目は完全に笑っていなかった。
あれ以上、背筋が凍るような思いは勘弁だ。
「こちらです」
物思いにふけっていると、案内役が立ち止まり襖を開けた。
謙也が一歩中に入ると音も立てず、しかも俊敏に襖が閉められた。
部屋の奥にいたのは謙也と大して歳の変わらない男だった。
着物の胸元を開けさせ、軽く羽織っただけの打ち掛けを纏った男は謙也の姿を見つけると一吹きして、煙管で謙也の足元を指した。
「そこに座り」
「はっ、はい!」
見るとそこには座布団が敷かれていた。
緊張した謙也は返事さえもままならない。
「ここへ来たんならわかってるやろうが、俺は情報屋の千歳ばい。で、何の情報が欲しいんやが?」
「あの…白石蔵ノ介っていう人の」
謙也が名前を口にした途端、表情が変わった。
「あんた名前は?」
「忍足…謙也です」
「ほぅ…よかよ、情報は教えたる。やが、体張ってもらわないかんばい、それでもええ言うんやったら…」
「体張るって…」
謙也は嫌な予感がしてならなかった。
恐る恐る千歳に内容を聞こうとしたが、いきなり眼前に煙管が現れ謙也は顔を背けた。
「白石のせがれに会うんならそれなりの覚悟が必要や。見つかればただじゃ済まんからな」
「わかっとる…それくらいのこと」
「でも会いたいと?」
真剣な眼差しで千歳を見る謙也は力強く一回頷いた。
謙也の覚悟を感じ取った千歳は笑みを浮かべると、煙管を口にし、煙を吐いた。
「お前は運のいい奴や、帰ってええ。しっかり体張ってくるねんで」
「はぁ?」
まだ情報も何も教えてもらっていないのに帰ってもよいとの発言に驚きを隠せない謙也だったが、また後ろの襖が開きここまで連れて来た女性が現れた。
「お迎えが来ております」
「迎え…?」
未だ理解していない謙也は迎えが来たとの事で情報屋を出る。
「なっ…」
「お待ちしておりました」
玄関を出ると、そこには昼間見た駕籠が二つ並んでいた。
その駕籠の前には昼間見た初老の男性が立っていた。
「蔵ノ介様が礼をしたいとのことでお探ししておりました」
「礼…って」
そして謙也の有無を聞かずに無理矢理駕籠に乗せられ、どこかへと運ばれて行った……
駕籠に揺られること数十分、謙也が駕籠から下りた場所は塀の終わりが見えないようなお屋敷であった。
見るからに場違いな謙也はおどおどしながら中に入っていく。
そして一番奥の部屋へと通された。
「失礼致します…どうぞ」
初老の男性の言われるがままに謙也は中へ入った。
「よく参られたな」
そしてそこにいたのは――――――
昼間とは打って変わり、少々ラフな格好をした蔵ノ介だった。
「っ…」
また謙也の胸が疼く…
「あなたと少し話がしたい。そんな所じゃなくてこちらへ来なさい」
そう言われた謙也は鼓動が高鳴る胸を沈ませようとしながら蔵ノ介の前へと腰を下ろしたのだった―――――――
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